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ACHIEVEMENTS研究成果

ACHIEVEMENTS

研究成果

プレスリリース

2022.08.12

葉緑体形成に必須なタンパク質輸送装置の中核を担う新たな因子を発見

お読みいただく前に

・葉緑体は、植物や藻類に特有の細胞内小器官オルガネラで、核コードの3千種類もの異なるタンパク質が細胞質ゾルで合成された後に葉緑体へ運ばれることで、光合成に代表される必須な機能を果たすことができます。
・TICは、葉緑体を包む2重の包膜に存在するタンパク質輸送に関わる分子装置のうち、特に内包膜の輸送装置です。大阪大学蛋白質研究所の中井正人准教授らの研究グループによりその存在が明らかにされていましたが1、その中核因子については異論もあり、まだ不明な点が多く残されていました。

 

研究成果のポイント

◆  植物や藻類の葉緑体内包膜でタンパク質輸送を担う輸送装置の新たな中核因子を発見。
◆  研究グループは、これまで植物や藻類の葉緑体形成に重要な葉緑体タンパク質輸送装置を見出していたが、分子量の小さい因子は見落とし易く、同定も難しかった。今回、生化学的解析と分子遺伝学的解析を駆使することで、新奇因子の発見と機能解析に繋がった。
◆ このタンパク質は、輸送される葉緑体タンパク質と直接相互作用し、また緑藻や植物に広く分布している事から、タンパク質輸送装置の中核を形成すると考えられる。

 

概要

図1 Tic12はTic20と共に葉緑体内包膜のタンパク質輸送装置の必須中核因子として輸送される葉緑体タンパク質前駆体のトランジット配列部分と直接相互作用する。

今回、蛋白質研究所の趙雪洋さん(在籍時理学研究科の博士課程学生)、比嘉毅さん(在籍時日本学術振興会特別研究員、現:東京大学)、中井正人准教授らの研究グループは、これまでTICの中心と考えられていたTic20タンパク質と共に輸送装置の中核を構成するTic12タンパク質を同定することに世界で初めて成功しました。
これまでの解析では見落とされがちであった比較的分子量の小さい因子について、過去のデータを見直すことで候補因子を洗い出し、さらに詳細な生化学的解析と変異体を用いた分子遺伝学的解析を行いました。
特に部位特異的光架橋の手法を用いて、Tic12はTic20と共に、内包膜を輸送途上の葉緑体タンパク質前駆体と直接相互作用する事を示しました(図1)。
TICの構成因子は植物進化の中でも一部変化している例外が知られていますが、Tic12はTic20と同様、植物に広く保存されているだけでなく緑藻にも対応する因子が確認され、緑色植物界の葉緑体タンパク質輸送の根幹で必須の役割を担っていることが明らかになりました(図1)。
葉緑体へのタンパク質の輸送効率を上げるといった植物や緑藻を用いた葉緑体工学への応用も期待されます。
本研究成果は、国際誌「The Plant Cell」に、8月5日(金)(日本時間)に公開されました。

 

掲載論文・雑誌

タイトル:“Tic12, a 12-kD essential component of the Translocon at the Inner envelope membrane of Chloroplasts in Arabidopsis”
著者名:Xueyang Zhao, Takeshi Higa1, Masato Nakai*.
(*責任著者、大阪大学蛋白質研究所; 1 現:東京大学)

掲載雑誌:The Plant Cell
                https://doi.org/10.1093/plcell/koac240
DOI:10.1093/plcell/koac240

なお、本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「基盤研究(B)」の支援を受けて行われました。

 

※1 掲載済参考論文

タイトル:Uncovering the Protein Translocon at the Chloroplast Inner Envelope Membrane.
               (2013) Science 339, 571-574.( https://doi.org/10.1126/science.1229262)

著者名:Shingo Kikuchi, Jocelyn Bédard, Minako Hirano, Yoshino Hirabayashi, Maya Oishi,
             Midori Imai, Mai Takase, Toru Ide, & Masato Nakai*

 

 

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