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ACHIEVEMENTS研究成果

ACHIEVEMENTS

研究成果

プレスリリース

2022.11.28

新型コロナウイルスに対する新しいウイルス吸着療法 ~重症COVID19患者の人工呼吸器離脱を改善~

研究成果のポイント

  • ・新型コロナウイルスに対するウイルス吸着カラムを開発した。
  • ・ウイルス吸着カラムを用いた血液吸着療法※1により、重症COVID-19患者のウイルス陰性化率が改善した。
  • ・ウイルス吸着カラムを用いた血液吸着療法により、重症COVID-19患者の人工呼吸器からの離脱時間も早くなった。

 

概要

 大阪大学大学院医学系研究科の猪阪善隆 教授(腎臓内科学)、大阪大学医学部附属病院の内山昭則 准教授(集中治療部)、平田陽彦 助教(呼吸器・免疫内科学)、山田知美 特任教授(常勤)(未来医療開発部)、大阪大学感染症総合教育研究拠点の小野慎子 特任准教授(常勤)(ウイルス制御学)、株式会社ペプチド研究所 吉矢拓 博士(大阪大学蛋白質研究所 客員教授)らの研究グループは、ヒトのアンジオテンシン変換酵素2(hACE2)の配列をもとに設計した8種類のペプチド候補から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を特異的に吸着するペプチドを見出し、エンドトキシン吸着カラム(PMXカラム)2を改良した新型コロナウイルスを吸着するカラム(SARS-catchカラム)を開発しました。SARS-catchカラムはPMXカラムに比べて65%以上のSARS-CoV-2を除去することが確認されました。人工呼吸器を必要とする重症新型コロナウイルス患者7名に対し、SARS-catchカラムを用いたウイルス吸着療法の効果を検証する臨床試験を行い(図1)、本研究のデータを新型コロナウイルス感染症(COVID-19)3重症患者の過去のデータと比較しました。また、当院で加療した重症新型コロナウイルス患者と比べると、SARS-catchカラムを用いたウイルス吸着療法により、人工呼吸器からの離脱時間も早く、血中ウイルス量陰性化率も改善していることを確認しました。

本研究成果は、「Clinical and Experimental Nephrology」誌に、11月8日に公開されました。

 

研究の背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に蔓延し、パンデミックを引き起こしました。ワクチンや薬剤の開発にもかかわらず、COVID-19患者の中には重症の呼吸器疾患やその他の合併症を発症する人がいます。最近、血中のSARS-CoV-2ウイルス量が高いほど、呼吸器疾患や炎症が重症化することや、血中SARS-CoV-2ウイルス量の値が有害な転帰や死亡率と関連することも明らかとなりました。SARS-CoV-2はスパイク糖タンパク質を介して宿主細胞のヒトのアンジオテンシン変換酵素2(hACE2)のペプチダーゼドメイン(PD)に結合して、細胞内に侵入します。最近、ポリミキシンB固定化ポリスチレンカラム(エンドトキシン吸着カラム)(PMX)を用いた血液吸着療法が、重症のCOVID-19患者に用いられています。本研究では、エンドトキシン吸着カラムのポリミキシンBの代わりにhACE2のPDのアミノ酸配列をもとに設計した特定のペプチドをPMXカラムに固定化したSARS-CoV-2吸着カラム(SARS-catchカラム)を開発し、SARS-catchカラムを用いた重症COVID-19患者に対する血液吸着療法の臨床試験を実施しました(jRCTs052200134;2021年2月15日初回公表)。

 

本研究の成果

SARS-CoV-2スパイク糖タンパク質が結合する、ヒトのアンジオテンシン変換酵素2(hACE2)の21番目から43番目までの塩基配列を基に候補となるペプチドを設計し、エンドトキシン吸着カラムの繊維に候補ペプチドを固定し、スクリーニングを行いました。その結果、最もウイルス吸着効果の高い4Nペプチドをカラムに固定することとしました。このペプチドをPMXカラムに固定化したSARS-CoV-2吸着カラム(SARS-catchカラム)にSARS-CoV-2ウイルス液を循環させた場合、従来のPMXカラムに比べて65%以上のSARS-CoV-2を除去することが確認されました(図2)。

本研究では、重症COVID-19患者を対象に、SARS-catchカラムを用いた血液吸着療法の安全性と有効性を検討しました。本研究では人工呼吸器を使用している重症COVID-19患者7名に、SARS-catchカラムを用いたウイルス吸着療法を3日間(6~8時間/日)実施しました。本研究で得られたデータを、本研究開始以前にCOVID-19により大阪大学医学部附属病院の集中治療室に入院した患者のコホートデータと比較しました。 人工呼吸器からの離脱時間の中央値は、本研究では5.0日であり、コホート研究の14.0日と比較して、人工呼吸器装着から離脱までの時間がより早いことが確認できました。7日目の人工呼吸器からの離脱率は、本研究では42.9%であり、コホート研究の15.2%と比較して、離脱率が高いことが確認できました(図3)。 血中SARS-CoV-2陰性患者の割合は4日目(本研究42.9% vsコホート研究 12.1%, p = 0.088)から7日目(71.4% vs 33.3%, p = 0.094)、14日目(100% vs 66.7%, p = 0.16)にかけて増加することがされましたが、サンプル数が少ないため、有意な結果は得られませんでした(図4)。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

血中SARS-CoV-2ウイルス量の高値は、より重症の呼吸器疾患や炎症と関連しているが、血中のSARS-CoV-2ウイルスを減らすと呼吸機能が改善するかは明らかではなかった。本研究により,ウイルス吸着療法を適切な時期に行うことで、重症COVID-19患者の血中SARS-CoV-2を除去し、呼吸機能を改善する可能性が示された。しかし、この知見をさらに評価するためには、今後、大規模な研究を実施する必要がある。

 

用語解説

※1 血液吸着療法:

血液吸着療法は、患者さんからカテーテルなどを用いて取り出した血液をカラムに通し、毒素などをカラムに吸着させて取り除いた後、血液を身体に戻す治療法です。エンドトキシン吸着、活性炭吸着、ビリルビン吸着療法、ウイルス吸着療法などがあります。

※2  エンドトキシン吸着カラム(PMXカラム):

エンドトキシン吸着カラムは、エンドトキシンを高率に吸着するポリミキシンBを固定化した繊維が充填されているカラムです。急性肺障害や間質性肺炎の急性増悪症例に対してエンドトキシン吸着療法が行われてきましたが、COVID-19患者にも使用されています。

※3 新型コロナウイルス感染症(COVID-19):

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、SARS-CoV-2によって引き起こされる感染症です。COVID-19 によって起こる症状のほとんどは軽度から中等度であり、特別な治療を受けずに回復します。しかし、中には重症化して、人工呼吸器などを用いた治療が必要になることもあります。

 

論文情報

本研究成果は、2022年11月8日に「Clinical and Experimental Nephrology」(オンライン)に掲載されました。

タイトル: “Establishment and Clinical application of SARS-CoV-2 catch column”

著  者:Yoshitaka Isaka1, Taku Yoshiya2,3, Chikako Ono4, Akinori Uchiyama5, Haruhiko Hirata6, Shigeto Hamaguchi7, Satoshi Kutsuna7, Yoshitsugu Takabatake1, Ryotaro Saita8, Tomomi Yamada8, Atsushi Takahashi1, Masaya Yamato9, Yukie Nohara2, Shugo Tsuda2, Itsuki Anzai10, Tomonori Kimura11, Yoshito Takeda6, Kazunori Tomono12, Yoshiharu Matsuura4

  1. 1.大阪大学大学院医学系研究科 腎臓内科学
  2. 2.株式会社ペプチド研究所
  3. 3.大阪大学蛋白質研究所
  4. 4.大阪大学感染症総合教育研究拠点 ウイルス制御学
  5. 5.大阪大学医学部附属病院 集中治療部
  6. 6.大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
  7. 7.大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学
  8. 8.大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部
  9. 9.りんくう総合医療センター 総合内科・感染症内科
  10. 10.大阪大学 微生物病研究所
  11. 11.医薬基盤・健康・栄養研究所KAGAMIプロジェクト
  12. 12.大阪健康安全基盤研究所

DOI:https://doi.org/10.1007/s10157-022-02296-9

本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)「ウイルス等感染症対策技術開発事業」、「医療機器開発推進研究事業」の支援を受けて行われました。本研究にご協力いただいた皆様に深く感謝いたします。

 

【研究者のコメント】(猪阪 善隆 教授)

本研究により、ウイルス吸着療法を適切な時期に行うことで、重症COVID-19患者の血中SARS-CoV-2を除去し、呼吸機能を改善する可能性が示されました。SARSとSARS-CoV-2の両ウイルスがhACE2を介して細胞に侵入することを考慮すると、SARS-catch カラムはhACE2を標的とする別のコロナウイルスの流行時にも有用である可能性があります。さらに、SARS-CoV-2と同様に、ウイルス血症が頻発し、血中ウイルス量が疾患の重症度と関連するウイルス性疾患(エボラ出血熱や血小板減少症候群を伴う重症熱など)に対しても、このようなカラムによるウイルス吸着戦略が有効である可能性があります。

 

【蛋白質研究所】研究者紹介:吉矢 拓 客員教授(産学・国際連携研究室)

 

―ひと言コメントをお願いいたします―

本研究は、SARS-CoV-2の表面にあるスパイク蛋白に結合するペプチドを利用して、血中のSARS-CoV-2を除去するという新奇なCOVID-19治療戦略の実証試験研究となります。
研究開始時には、そのようなペプチドが本当に設計出来るのか、設計出来たとして血中のウイルス粒子を除去出来るのか、そして最も大きな疑問として、それがCOVID-19の治療に繋がるのかといったように、目の前はハテナばかりでした。
今回、学内を中心とした多くの先生方とのコラボレーションで一つ一つのハテナを解消していき、最終的に新しい抗ウイルス治療概念として本研究をパブリッシュ出来たことは非常に幸運なことだと思っております。
この経験も活かし、今後も蛋白を着眼点とした研究で社会に貢献したいと考えております。

 

 

 

 

 

 

 

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