ACHIEVEMENTS
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ACHIEVEMENTS研究成果
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プレスリリース
2024.09.19
大阪大学蛋白質研究所の古川貴久教授、茶屋太郎准教授、前田和特任研究員らの研究グループは、大阪大学超高圧電子顕微鏡センターの梶村直子特任研究員(当時)と東京大学大学院医学系研究科の田中輝幸准教授(当時)と共同で、指定難病の網膜色素変性症を含む繊毛病の治療薬候補として既存薬である線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体阻害剤を同定するとともに、治療標的候補タンパク質も発見しました。
細胞表面に形成される突起状構造の繊毛(線毛)は生物の発生過程や恒常性の維持に重要な役割を果たしています。ヒトにおいて、繊毛の機能異常は、網膜色素変性症をはじめとした多彩な症状が見られる繊毛病と呼ばれる疾患を引き起こすことが知られています。しかしながら、繊毛病の病態メカニズムは不明な点が多く、繊毛病に対する真に有効な治療法は確立されていません。
今回、研究グループは、FGF 受容体阻害剤を用いて繊毛局在型タンパク質リン酸化酵素の ICK を活性化することにより、網膜色素変性症のモデルマウスで網膜変性の症状が改善されることを見出しました。さらに、繊毛病モデル細胞においても FGF 受容体阻害剤や ICK の活性化により繊毛の形成や機能の障害が抑制されました。
これらにより、ICK を活性化することで網膜色素変性症をはじめとした繊毛病を治療や改善できる可能性が示され、根本的な治療法のない繊毛病に対する治療薬開発への道が開かれました。
本研究成果は、科学誌「Life Science Alliance」に、9 月 18 日(水)午後 10 時(日本時間)に公開されました。
繊毛は、ほとんどすべての細胞に存在する微小管を軸とした突起状の構造物で、回転運動により水流を生み出す運動性の繊毛や、細胞外からのシグナルを受け取るアンテナとして機能する一次繊毛があります。
ヒトにおいて繊毛の機能異常は、網膜色素変性症、不妊、嚢胞腎、肥満、多指症、水頭症といった繊毛病と呼ばれる様々な疾患を引き起こすことが知られています。繊毛病の病態機構は不明な点が多く、繊毛病に対する真に有効な治療法は確立されていないことから、繊毛病は日本国の指定難病にもなっています。現時点で、繊毛病関連の指定難病として多発性嚢胞腎(指定難病 67)、網膜色素変性症(指定難病 90)、ジュベール症候群関連疾患(指定難病 177)、黄斑ジストロフィー(指定難病 301)、ネフロン勞(指定難病335)があり、治療法のない繊毛病の改善・治癒や症状の軽減に有効な治療法や治療剤の開発が待ち望まれています。
繊毛内では、根本から先端(順向き輸送)そして先端から根本(逆向き輸送)へとタンパク質の輸送がなされており、繊毛の形成や機能に必須の役割を果たしています。順向き輸送は主にモータータンパク質キネシンにより、逆向き輸送は主にモータータンパク質ダイニンにより担われます。このタンパク質輸送機構に影響する遺伝子変異は繊毛病の主要な原因になっています。
古川教授らの研究グループは以前、生体内機能未知のタンパク質リン酸化酵素 ICK が繊毛の先端に局在し、繊毛内タンパク質輸送方向切り替えの重要な制御因子となっていることを見出していました。(2014.5.5 プレスリリース「細胞のアンテナ“繊毛”における蛋白質輸送の制御メカニズムが明らかに」)
研究グループは、ICK に加えて目の網膜視細胞で発現するキナーゼ MAK※3 も繊毛の先端でタンパク質輸送方向の切り替えを制御することを今回新たに見出しました。ヒトにおいて MAK 遺伝子は網膜色素変性症の原因遺伝子の一つになっていることが知られており、MAK 欠損(KO)マウスは網膜色素変性症の良いモデルとして知られています。MAK KO マウスの網膜視細胞変性を、視細胞において発現するICK を活性化することによって回復できるのではないかと着想し、ICK を MAK KO マウスの網膜において発現させると、網膜変性が抑制されました。また、培養細胞において、FGF シグナルによって ICK 活性が負に制御されることが報告されていることから、MAK KO マウスに FGF 受容体(FGFR)阻害剤を投与したところ ICK の活性化を介して、コントロール投与群に比べて視細胞の変性が組織学的(視細胞層の厚み)にも機能的(網膜電図)にも有意に抑制されました(図 1)。
さらに、MAK の欠損により繊毛内タンパク質輸送の異常を来すことから、M AKの変異以外が原因となる繊毛内タンパク質輸送の異常を示す繊毛病に対しても ICK の活性化が有効ではないかと考えました。培養細胞において、繊毛のダイニンモーター構成因子でヒト繊毛病原因遺伝子として知られる Dync2li1をノックダウンにより発現低下させると繊毛の形成や機能の異常が見られますが、ICK の発現や FGFR阻害剤による処理により、それらの繊毛の異常が改善されました(図 2)。以上より、ICK を活性化させることで、繊毛内タンパク質輸送が障害される網膜色素変性症をはじめとした繊毛病を治療や改善できる可能性が示されました。
本研究成果により、ICK が繊毛病の治療標的候補となることが示され、繊毛病の治療法開発への道が開かれました。今後、既存の FGF 受容体阻害剤(ICK を活性化)の適応や新たな ICK の活性化剤の開発によって、根本的な治療法のない繊毛病の治療に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2024年 9 月 18 日(水)午後 10 時(日本時間)に科学誌「Life Science Alliance」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Ccrk-Mak/Ick signaling is a ciliary transport regulator essential for retinal photoreceptor survival”
著者名:Taro Chaya, Yamato Maeda, Ryotaro Tsutsumi, Makoto Ando, Yujie Ma, Naoko Kajimura, Teruyuki Tanaka, and Takahisa Furukawa
DOI: https://doi.org/10.26508/lsa.202402880
なお、本研究は、日本学術振興会( JSPS )科学研究費補助金 21H02657, 24K09996, 23K18199、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)21gm1510006、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団の支援を得て行われました。
国指定の難病として知られる網膜色素変性症をはじめとした繊毛病は、その病態メカニズムの解明が進みつつあるものの、現在まで真に有効な治療法は存在していません。今回の私たちの基礎研究により明らかとなった知見が繊毛病の治療薬開発へとつながり、繊毛病や網膜色素変性症で苦しむ患者さんにとって希望の光となれば、この上ない喜びです。
大阪大学蛋白質研究所分子発生学研究室(古川研究室)
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/furukawa_lab/index.html
古川貴久教授 研究者総覧 URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2e7c43d3432fbb17.html