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ACHIEVEMENTS研究成果

ACHIEVEMENTS

研究成果

プレスリリース

2024.09.27

太陽光捕集メカニズムの解明へ一歩前進!人工的な光合成アンテナの構造解析に成功

<ポイント>

◇ 人工的に光合成アンテナ色素タンパク質複合体(LHCII1)を生成し、その3次元構造をクライオ電子顕微鏡法2を用いて高分解能で解析。
◇ 人工的なLHCII(rLHCII)が天然由来のLHCIIと同一の構造であることを解明。
◇ rLHCIIの有用性を示し、人工光合成などの研究に貢献。

<概要>

植物や藻類の葉緑体に存在する光合成アンテナ色素タンパク質複合体(LHCII)は、太陽光を捕捉し効率的にエネルギーを散逸させて光合成を促進します。このメカニズムを解明するには、LHCII に含まれるクロロフィルやカロテノイドなど多種類の色素の光学特性を特定する必要があります。そのため、LHCIIに局所的な変異を組み込み、対象となる色素の特徴を解明しようと長年研究が行われてきました。しかし、人工的なLHCII(rLHCII)における色素を取り巻く環境は、推定はできていましたが構造は明らかになっていませんでした。

大阪公立大学人工光合成研究センターの藤井 律子准教授と関 荘一郎JSPS特別研究員(現、大阪大学蛋白質研究所)、大阪大学生命機能研究科の難波 啓一特任教授(常勤)、大阪大学蛋白質研究所の栗栖 源嗣教授らの研究グループは、クライオ電子顕微鏡法を用い、rLHCII三量体の3次元構造を高分解能で解析。rLHCIIが天然由来のLHCIIと実質的に同一の構造を示すことを初めて明らかにしました。今後、人工的に光合成アンテナを作り出す再構成法を用いた太陽光捕集メカニズムの研究が、さらに発展することが期待されます。

本研究成果は、2024年9月25日に国際学術誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載されました。

図 再構成LHCIIの3次元構造 再構成LHCIIと天然由来LHCIIは、ほとんどの領域で同一の構造を持つ。

<研究の背景>

光合成アンテナ(LHCII)は太陽光を吸収し、そのエネルギーを効率良く集める色素タンパク質複合体です。LHCIIの単量体の中には18分子もの色素が詰め込まれており、その構造の複雑さから、LHCIIに結合する色素の機能は明らかになっていません。この困難さを打破する上で、in vitro再構成法は極めて効果的な手法です。In vitro再構成法は、大腸菌で人工的に合成したタンパク質と植物の葉から抽出した光合成色素を試験管内で混合することにより、人工的にLHCII(rLHCII)を生成する手法です。タンパク質の特定の部位に変異を入れたり結合する色素の組成を変化させたりと、LHCIIの構成要素を幅広くデザインできるため、LHCIIの機能の本質を担う構成要素を明らかにできます。しかし、in vitro再構成法により生成したrLHCIIの立体構造は解明されておらず、この手法でデザインした通りに構造が再現されているのかは不明でした。

<研究の内容>

本研究では、まず、独自に開発した手法により高分解能での構造解析が可能な純度でrLHCIIを取得しました。そして、クライオ電子顕微鏡法を用いて、色素配置やタンパク質の構造が決定できる2.4Å分解能での構造解析に成功。その結果、rLHCIIと天然由来のLHCIIの色素の配置やタンパク質の立体構造は、ほぼ完全に一致していることが分かりました。また、特定の色素が欠損、置換していること、タンパク質の一部が見えていない(安定していない)こと、という相違点が明らかになりました。これらの結果により、rLHCIIが天然由来のLHCIIを再現していることが初めて明らかとなり、LHCII研究においてin vitro再構成法が十分に使用できる手法であることを示しました。

<期待される効果・今後の展開>

本研究ではrLHCIIの構造基盤を確立しました。これにより、植物が太陽光を光化学反応に利用する分子メカニズムを明らかにする研究が進むことが期待できます。将来的には、植物の光合成生産量の拡充や、人工光合成などの可視光利用技術に貢献すると考えられます。

<資金情報>

本研究は、科学研究費補助金 学術変革A「光合成ユビキティ」(課題番号:23H04958、24H02091)、基盤(C)(課題番号:23K05721)、特別研究員奨励費(課題番号:K23KJ1834)、科学技術振興機構 CREST(課題番号:JPMJCR20E1)、生命科学・創薬研究支援基盤事業 (課題番号:JP23ama121003、JP23ama121001)、大阪公立大学RESPECT、小柳財団研究助成金(2024年度)の支援を受けて行われました。

<用語解説>

  • ※1 LHCII:Light-harvesting complex IIの略称。主に光化学系IIに結合するアンテナ。
  • ※2クライオ電子顕微鏡法 : 極低温で凍結させたサンプルの電子顕微鏡画像を取得し、その像を重ね合わせることでタンパク質等の立体構造を解明する手法。

<掲載誌情報>

【発表雑誌】PNAS Nexus
【論文名】Structure-based validation of recombinant light-harvesting complex II
【著者】Soichiro Seki*, Tomoko Miyata, Naoko Norioka, Hideaki Tanaka, Genji Kurisu, Keiichi Namba, Ritsuko Fujii* (* 責任著者)
【DOI】10.1093/pnasnexus/pgae405
【掲載URL】https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgae405

<研究者からひと言>

関 荘一郎研究員
植物の光合成のメカニズムは非常に複雑で、その機能解明は困難を極めます。その中で、人工的に生成したLHCIIが十分に研究に使えることを本研究により証明できたことで、人工光合成や植物の生産技術の研究に大きく貢献できると期待しています!

栗栖 源嗣教授
LHCII組換え体の構造解析プロジェクトは,私と藤井先生(大阪公立大)がJSTさきがけの「光エネルギーと物質変換」領域で,ご一緒したのがきっかけでした。蛋白質が得意な私と,色素分析が専門の藤井先生とで共同研究としてスタートしました。遺伝子クローニングや組換え体の発現は大阪大学で,天然色素を用いた再構成は大阪公立大で,最後の構造解析は公立大の院生(現在は大阪大学の博士研究員)だった関さんが阪大に来て完成してくれました。化学的に光合成色素を研究する非常によいツールが完成したと思っています。

蛋白質結晶学研究室(栗栖研):http://www.protein.osaka-u.ac.jp/crystallography/LabHP/

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